しんばし通

Shinbashi Expert しんばし通

[第一幕] 新橋の過去・現在・未来

号外 ニッポンが壊れていく!!


 先日、創立70年余りの老舗の魚屋さんが閉店した。
「粋のいい美味しい魚を食べてもらいたいと頑張ってきたが、最近の人は味の無い居酒屋チェーンの刺身の方が安くて良いらしい。あと10年、体を壊してまで頑張ってもどうなる?と思ったらここが潮時かな」そんなご主人の話しを聞くとまさに日本人の誇りも文化も壊れてきてしまったと思う。最近の上っ面の格好良さ、安さで客を呼び、中身はB級の店がなんと増えたこと。マスコミやネットで客を呼び、外見やインテリアは本物風なのに、中身の商品や料理、サービスはB級品。心のふれあいも無ければ、ただマニュアル化された受け答えがあるだけ、そのくせ店の能書きだけは天下一品。そんな店を文句も言わずにオシャレな店として受け入れてしまう自信の無い客も増えてきているようだ。味も素っ気も無い名前だけ「中トロ」でも、盛り付けと器に騙されて、ワサビ醤油に誤魔化されて、「中トロって美味しいものなんだ」と思ってしまう客が増えたから、マグロならばなんでも食べちゃう有名ブランドならばきっと似合っているのだろうと身につけたがる自信の無い客が増えたから、西欧の有名ブランドも誇りを捨てて金儲けに徹する企業に変身する。ルイヴィトンの半分は日本人が買うのだそうだ。経験の浅い若い人も、経験豊富な年配の方も、ビギナーも、ベテランも自分の耳・目・舌を信じ、試行錯誤していく方が楽しいのに、マスコミの作り上げた「人気NO.1」とか「今回限りのお買い得」などという数字やデータを優先してしまう日本人、「騙されたら他人のせいにできるから」では寂しい限り。知らないことは恥ずかしいことではないし、むしろ小さな失敗を繰り返すことで大きくなれるから本物がわかってくる。

 目利き力をつける近道は「美しいものを見る」「良い音楽を聴く」「美味しいものを食べる」「良い香りを嗅ぐ」など五感を駆使して自分の美的感覚を中身から身につけていくこと。知ったかぶりが一番恥ずかしいことを知ること。「裸の王様」とは周りから恥ずかしいと思われていても自分では分からない人のことですね。自分らしさがにじみ出ている人はとても素敵です。逆に背伸びして裸の王様になっている人、自信を失って消極的になりすぎている人が増えると、この国は他国の虎に侵略されてしまいます。もっと自分に素直になって自信を取り戻しましょう。そうしないと本物の文化を必死に守ろうとしている昔かたぎの商人達が、欧米型の機能優先の合理主義に負けてしまいます。「ジューシーな肉厚のハンバーグを外側がカリッとしたマフィンにはさみ、チーズなどのトッピングとポテト、口直しの酸味の利いたピクルス、ひとつ食べれば心もお腹も充分満足」、これが“ハンバーグ”というもの。でも日本ではこんな美味しいハンバーグを食べさせてくれるお店は少ない。“マグロの刺身、にぎり”も本物を知らずして、やれ「中トロ」が好きなどと語る無かれ。本物のマグロを食べさせてくれるところはあるのに日本人の多くは「高いから行かない」、味が無くても安いマグロかそれしか知らないマグロ初心者、牛肉、鶏肉とて同じ、国産は高いから味の無い輸入肉しか買わない日本人が増えた。

 商社やマスコミ、欧米型マーケティングの商法が新しいルートを開発し無知な消費者を引き込んだのかもしれない。その結果、商店街の生鮮三品はスーパーなどに消費者を取られ、車社会の普及も後押しし、自家用車を持ちマイホームもあるのに「家には余裕がない」といっては「安さとお買い得」にひた走る平成の消費者と、「安さとお買い得」を打ち出せば財布の紐を緩めてくれる手口を知って凝りもせずにセールやキャンペーンを打つ店。それでも数少ない目利きの出来る素敵なお客様に恵まれて何とか生き延びている本物志向のお店と、惚れ惚れするような買い方、飲み方、お金の使い方をしてくださる(たくさん使うという意味ではないですよ)お客様がいるから「粋な街」が続いています。最後に自分も客になるときは粋でスマートな良い客になれるよう、気持ちを込めて店に足を運んでいます。たまには恥をかくことがあるけれど、でも気持ちがあればいいんじゃない。

P.S. 平日の業務都市「汐留」から何千人、何万人という人が帰った閉店間際のパティオ(中庭)に夏のビル風を感じながらゆったりとした時間を楽しんでいる数十人の人達、行きつけの烏森のお店で四季折々の風情を感じながら心のふれあいを楽しんでいる人達は心豊かな「しんばし通」。ただひたすらに機能と合理性を求めて効率的に歩き回って人達はゆとりの無い「情報通」。

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