イナセくんと行く、新橋さんぽ

新橋さんぽ三十四歩目

ゆかた美人と知る江戸前の技 『寿司處 金兵衛』

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生地が出来上がると、いよいよ使い込まれた銅製の専用玉子焼器の出番です。
米油を注ぎ込み強火でシッカリと熱し、余分な米油を落として粗熱を取ったら、生地を一気に流し込みます!生地が溢れ出さんばかりの玉子焼器を慎重に動かしながら、トロ火で四隅から焼き入れをしていきます。約30分程してプワッと生地が膨らんで周りが焼けたのを確認すると、3本の菜箸を入れ、それを器用に持ち、手前から滑らす様に持ち上げると、一瞬で見事に引っ繰り返しました!
「スゴイ!一枚焼ってそんな技術が必要なんだ!それに片面焼くだけでも30分も費やすんだ!」
「そうかな?練習すれば誰だって出来る様になるって。経験を積んで生地のちょっとした変化が分かる様になれば、良いものを焼ける様になるはずだよ。時間をかけてゆっくりと焼かないと芯が焼ける前に表面が焦げ過ぎちゃうからね。(笑)」
さり気ない台詞を口にしながら、引っ繰り返したら木蓋を使い玉(ぎょく)をしめます。そして軽く焼き入れをしたら完成です!玉子焼器を引っ繰り返し、木蓋の上に現われた玉(ぎょく)はとても綺麗な黄色をしていて、ほんわかな湯気と一緒に甘く美味しそうな匂いが漂ってきます!
「わぁ~美味しそう!早く食べたいよ!!」                                              
「おっと残念、イナセくん。今すぐ食べるよりちょっと休ませて冷めた方が、芝エビの風味も甘さも際立って美味しいんだよ。だから夕方の営業が始まったらまたおいで。」
「そっか!なら夕方改めて伺いますので、宜しくお願いします!」
 


=溢れんばかりに膨らんできた!=

 


=おぉぉ!寸分違わず引っ繰り返した!=

 

 
待ちに待った17時。オイラ達は営業開始時間と共に店舗へと飛び込みました!
あっ、そうそう。一人ではなんだなぁ~と思ったので、第17回ゆかた美人コンテスト準グランプリの藤本真未(まなみ)さんをお食事に誘っちゃいましたheart
「いらっしゃいませ!待ってたよ、イナセくん!」
気持ちの良い掛け声で、まだ木の薫りが漂う真新しい檜のカウンターへと案内されました。
ビルの建て直しに伴いリニューアルした店内は、檜の総白木で綺麗で高級感もたっぷりです!
目の前にあるネタケースには様々なネタが整然と並べられていて、まるで宝石箱の様にも見えます。植田さんのこだわりでこのネタケースは氷で冷やす仕組みになっているそうで、
「氷によって適度な湿度が保たれ、冷蔵庫の様に冷え過ぎたりもしないので、ネタを一番美味しい状態で食べてもらう事が出来るんだ。」との言葉にオイラ達のテンションも更に上がってきました!
 
「それじゃ、はじめましょうか。」
植田さんの言葉の後に最初の握りが出てきました。本日の白身“マコガレイ”です。
適度な身の弾力とねっとりとした食感で甘みもあって凄く美味しい!オイラの知ってるゴリゴリとした白身とはちょっとイメージが違う…?
「それはシメてから一晩寝かせてあるからなんだ。鮪や白身なんかの大きめの魚は、シメたてだと死後硬直で固いだけの身なんだけど、寝かせる事によって身が熟成して柔らかになり、イノシン酸やアミノ酸といった旨味成分が出てくるんだよ。よくいわれる肉は腐る手前が一番美味しいってのと同じ事だね。」
ヘェ~!魚も獲れたての鮮度だけじゃなく、熟成によるベストなタイミングの美味しさがあるんだ!まずは一つ江戸前寿司の通になった気がするね!
 


=ネタケースを見てるだけでも楽しい!=

 


=色々と教えてくれる植田さん!=

 


続いて“シロギスの昆布〆”、鮪の赤身を漬けた“ヅケ”、小肌の子供で今しか食べれない旬の“シンコ”と食べていると真未ちゃんが、
『う~ん♡美味しい!それぞれが魚の美味しさを引き立てる様に味付けがされているし、お醤油みたいなのが塗ってあって食べ易くて良いね♡』
と微笑みながら言いました。そうなんだよね。握りには何か塗ってあるし、昆布なり醤油なり酢なりで味が付いているから、目の前の小皿の醤油を全く使ってないんだ。
「塗っているのは醤油をベースに煮切って作る【ニキリ(煮切り)】。これと甘いタレの【ツメ(煮詰め)】は江戸前寿司に欠かせないものだね。基本的に江戸前寿司は何かしらの≪仕事≫をしてから召し上がって頂く形になるんだ。塩を振って〆るにしても、時期によって魚の脂ののりが違うから、料理本みたいに漠然と何分漬けますみたいな仕事としてたら、活かすべき素材の美味しさを逃しちゃう。常に素材の状態に気を配っておかないとダメなんだ。だから目の前で生きてる魚を捌いて出すって当店じゃほとんどないんだ。江戸前寿司の始まりが屋台だったし、今みたいな保存技術が無かった時代にどう魚を保たせ、美味しく提供出来るかを考えた末の形が、現代でも引き継がれているこれらの≪仕事≫になるのかもね。」
 

[ さんぽ公開日:2013/08/05 ]


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